コパン アルターG
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インド マイソールのヒンドゥー彫刻
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「 ... 口を大きくあけて象の鼻をつけた海の怪物マカラは、インドや東南アジアの芸術では大きな役割を演じているが、マヤにおいても、そのまがうことなき姿において出現し、ときにはアステカにおいてすら見られる。アジアでもアメリカでもマカラはさまざまの形をしており、魚尾をつけているか四足の動物の形をしているかのいずれかであるが、アジアでもアメリカでも、ときどきその口の中から人間の像が出現している。 ... 」 (『世界考古学大系』15 P158, 大林太良「新旧両大陸間の文化交流」) 「 ... ワニに似た足の形、怪獣の口から人物の飛び出す思想など、こうした例が重なると偶然の一致とばかりは言えなくなる ... 」 (『世界文化史大系』P40, 石田英一郎 ) <私見> アルターGは両端に怪物の頭がある、すなわち双頭であるという点でマカラのみならず、古代には中国(周代)から東南アジア諸島にかけて拡がっていた美術モチーフ「シシウトル」(= 両端に頭を持つ蛇のデザイン)とも関連づけられるのではないかと思う。シシウトルは北米大陸の北西海岸に住むアメリカ先住民美術にもその例が見られ、個々の家々や集会所の棟飾りに多用されている。 また、シシウトルの分布と重なる環太平洋地域には「舌出し像」モチーフも共通しており、南太平洋の島々に行けば舌を出している神像などどこでも一般的に見ることが出来る。そして北米先住民美術でもこの地域特有のトーテムポールはまさに舌出し像の集大成と言えるものだろう。 その口から人や神が飛び出るマカラ的な怪物、太平洋を取り囲む地域に広がる両頭の蛇シシウトルと舌を出す神々… と列挙すれば、ここで思い起こされるのはアステカ時代の「太陽の暦」だ。太陽の暦は中央にナイフの形をした舌を出す太陽神、下部には左右から向かい合う両頭の蛇(マカラ?)の頭が配置されている。舌出し像とマカラとシシウトルの三つのモチーフを一度に盛り込んでいるかのようなこの石盤の存在は一体何を意味しているのか、大変興味深い。 | |
【 非常に参考となる論考 】
ミノ・バードナー、1978、弘文堂 「アメリカ北西海岸、ニュージーランド、中国の美術様式中の舌出し像とその関連諸モチーフ」
(『東南アジア・太平洋の美術』 人類学ゼミナール6 弘文堂,1978 所収)
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