バンテアイ・スレイの前に立つと、まず、その規模が想像以上に小さなことに驚かされる。アンコール・ワットやアンコール・トムの巨大伽藍を見てきた目には、まるでミニチュアかと感じられるほどだ。 しかし、寺院の中に入ると別の意味で驚くことになる。 赤色砂岩とラテライトで造られた壁面や屋根に極めて精緻で繊細なレリーフが隙間無く施され、空白への恐れと稠密への憧れと言うべきか、濃密な空間と時間がここにはあった。 寺院全体でひとつの芸術作品とも言うべきバンテアイ・スレイ。 「クメールの至宝」と呼びたい遺跡だ。