クバルスピアンはクメール人にとっての聖なる山プノン・クレーン山系の一画にある。
プノン・クレーン山系がクメール王朝歴代の王たちにとって聖地となったのは、9世紀初頭にジャヤヴァルマン2世がクレーン山で王を神として崇拝させるためにバラモン僧の集団を結成し、「神王崇拝の儀式」を執り行って以来のこと。
プノン・クレーンやクバルスピアンに彫刻が刻まれ始めたのはそれ以降のこととなり、クバルスピアンでは最古の確定年代として西暦1054年の銘文が発見されているという。
1960年代になって、ようやく一部の研究者に知られるようになったクバルスピアンの遺跡は、密林の奥深くを流れる渓流に沿って200メートルにわたり、ヒンドゥー教の神々の像やリンガ(男性シンボル)やヨニ(女性シンボル)の夥しい数の彫刻が水底や岩肌に刻まれている。シェムリアップ川は別名「千のリンガの川」とも呼ばれる。
水流の中に神々の像・リンガ・ヨニなどを刻むことによって、水に生命と活力を蘇らせる聖なるパワーが与えられると考え、ここは王族たちの病気治癒の場であると同時に、下流では農地を潤す水に作物豊穣の強いパワーを与える場でもあった。
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