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第3日目 Part7

 

Naqsh-i Rajab

 
ナグシェ・ラジャブ遺跡
ナグシェ・ラジャブ遺跡 案内標識
 
 現地案内標識の綴りでは“Naqsh-i Rajab”。素直に発音すればナクシィ・ラジャブ。

 しかし、大半のガイドブックでは“Nagsh-e Rajab”。日本語表記はナグシェ・ラジャブ。某大学の宗教史テキストでは“Naqsh-e Rajab”でカタカナ表記はナクシェ・ラジャブ。この調子だと、“Nagsh-i Rajab”と綴るナグシィ・ラジャブもきっとどこかにあるはず。
 一体、正しいのはどれなんだ!
 
 ここでは「 Naqsh-i Rajab 」と書いてナグシェ・ラジャブと読むことにします。(ちょっと無理があり過ぎ?)

 
ナグシェ・ラジャブ遺跡
 
 現在の道路から少し奥まった岩陰にササン朝時代のレリーフが残っている。ナグシェ・ロスタム遺跡のササン朝期レリーフと同じ頃に作られたとすれば3〜4世紀頃の制作か。王の顔が破壊されているものが多いが、全体としてはとても綺麗に残っている。
 
ナグシェ・ラジャブ遺跡 アルデシール1世の叙任図
ナグシェ・ラジャブ遺跡 アルデシール1世の叙任図-1
ナグシェ・ラジャブ遺跡 アルデシール1世の叙任図-2
 アルデシール1世(在位:226年〜241年)がササン朝ペルシアを開いた初代の王。
 アケメネス王家の血脈を受け継ぐ正統イラン系を売り物に衰退期のアルサケス朝パルティアを倒してペルシアを統一し、西暦226年、ササン朝政権を樹立した。
 この頃はアレクサンダー大王によるコスモポリタン的なヘレニズム文化が色褪せ、栄光と伝統のペルシアへの回帰願望が強まっていたこともアルデシールに有利な情勢だったらしい。
 このササン朝時代は「正統」とか「伝統」とかを極端に重要視したという。パルティア時代までのゾロアスター教を異端として教義や儀法を都合よく改変したり、ナグシェ・ロスタムのアケメネス朝の大王たちの墓をトラの威を借るキツネのように利用して、これ見よがしに自分たちの叙任図や戦闘図を彫り付けたのも正統性を誇示する姑息な手段だったのかも知れない。
 しかし裏返せば、これほどまでに正統や伝統の継承者たることを宣伝する必要性に迫られたのは、実はアルデシールのササン朝もアケメネスの血筋とは無関係で「正統」とは言えないものではなかったのか、という疑いが濃厚に感じられる。まったく、ダレイオス1世にしてもアルデシール1世にしても、そんなに血の権威が欲しいのか。
 やはり血縁・地縁の部族社会だから致し方ないのかな。
 
ナグシェ・ラジャブ遺跡 シャープール1世の叙任図
ナグシェ・ラジャブ遺跡 シャープール1世の叙任図-1
ナグシェ・ラジャブ遺跡 シャープール1世の叙任図-2
 ササン朝第2代シャープール1世(在位:241年〜272年)はアルデシール1世の息子。
 強固な中央集権体制の確立と領土の飛躍的な拡大を成し遂げ、400年以上続いたササン朝の基盤を形作った王。西暦260年のエデッサの戦いでローマ帝国軍を破り皇帝ウァレリアヌスを捕虜としたことでも有名。ナグシェ・ロスタム遺跡にもあった例のレリーフです。
 
 今回ナグシェ・ラジャブ遺跡を訪れたのは午後。
 もう日差しが傾き始めていたのでこのシャープール1世の叙任図は日陰で薄暗くなっていた。写真の出来がイマイチ。
 
ナグシェ・ラジャブ遺跡 シャープール1世の行進
ナグシェ・ラジャブ遺跡 シャープール1世の行進1
ナグシェ・ラジャブ遺跡 シャープール1世の行進2

 帝国の領土拡大に見られる軍事面や政治的な才能ばかりではなく、文学・哲学・医学・天文学などにも通じた「聡明」な君主だったと評されるシャープール1世。どこまでがホントか分かりませんが…。
 古今東西を問わず、為政者によって作られた歴史書や碑文は、まずは100%疑ってかかることが重要かと。

 
ナグシェ・ラジャブ遺跡  ゾロアスター教祭祀長 キルデール(?)
ナグシェ・ラジャブ遺跡 キルデール-1
ナグシェ・ラジャブ遺跡 キルデール-2

 シャープール1世の代から国教ゾロアスター教の祭祀長に就いていたキルデールの像と言われるレリーフ。

 キルデールはササン朝ペルシアの正統性に根拠を与える機能を果たしてきたゾロアスター教最高位の神官で、国教としての既得権益を守るためにキリスト教、ユダヤ教、マニ教、仏教、ヒンドゥー教など他の宗教を激しく弾圧した人間。
 また、王位の継承問題にも口を挟み、シャープール1世の後を継いだホルミズド1世、ワフラーム1世、ワフラーム2世、ホルミズド2世などの政治に大きな発言力を持っていたという。キルデール1人の存命中に、これほど何代も王が入れ替わるというのは王たちは皆若くして死んだ(殺された)ということなのだろうか。
 キルデールの像はナグシェ・ロスタム遺跡のレリーフ「ローマ帝国皇帝ウァレリアヌスをひざまづかせている馬上のシャープール1世」の背後にもチャッカリと彫られている。何か薄気味悪くてウサン臭い存在。このレリーフに彫られた妙な指先の仕草は呪術にも通じていそうな雰囲気がある。若き王たちを背後で操る怪僧と言っていい男だろう。